福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)653号 判決
二 右貞憲を除くその余の控訴人七名に対する関係において、原判決中同控訴人ら七名の敗訴部分を取消す。
三 被控訴人両名の右控訴人七名に対する請求を棄却する。
四 被控訴人両名と控訴人貞憲間の控訴費用は、同控訴人の負担とし、同控訴人を除くその余の控訴人七名と被控訴人両名間の訴訟費用は、第一・二審を通じ被控訴人両名の負担とする。
二、事 実
控訴人らは「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審を通じ被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは「各控訴を棄却する」との判決を求めた。
事実及び証拠の関係は、
控訴人らにおいて、(一)亡平島泰輔は大正七年から昭和九年まで、単独で血の池地獄を経営したのであるが、その経験により、これが経営を完全にするには、その地域・設備・景観を確保し、かつ、温泉湧出の保全措置を講ずることの必要なるを感得し、その目的達成のため、血の池地獄の温泉湧出地帯周辺の土地を買取り、遊覧に適当な設備をなし、桜木その他の栽植育成に努め、更に泉源系統地域を確保する等の周到な注意・努力をなしたのである。血の池地獄温泉の泉源系統地域は、別府市大字野田字御手洗一、五〇八番地の一、同一、五〇四番地の二と推測されるので、もし同地を他人が取得して温泉を掘さくするようなことでもあれば、血の池地獄温泉は、枯渇するか、少くとも湧出量を減ずることは必然であるから、泰輔は同地を買取り、その憂なからしめたのであつて、乙第一号証の地上権設定契約がなされたのも、同旨の事由によるのである。泰輔が以上のような努力と処置にいでたのは、自身は素より、自己の死亡後はその相続人らが安んじて永久的に本件共同事業に参加し得るものとの期待をかけてのことであつて、もしその相続人たる控訴人らに事業参加の権利がないのであればこれをなさなかつたであろうと推認されるのである。しかも、以上の事実及び原判決事実に摘示の控訴人ら主張の事実に鑑がみると、被控訴人らが控訴人らを排斥して、本件共同事業を独占経営しようとするのは、信義誠実の原則にも反するのである。
(二)控訴人らは全員一致して、控訴人二直を本件組合の組合員にすることを適当と考え、二直以外の控訴人らの持分を二直に譲渡した(乙第一四号証ないし第一八号証参照)。従つて、本件組合の組合員は、被控訴人らと控訴人二直の三名となるから、被控訴人ら主張の、組合員が多数となれば、事業の運営に支障をきたす旨の抗論は、自然根拠を失い理由がないことになるのである。
(三)被控訴人らの後記(3) の主張事実は認める。と述べ<立証省略>、
被控訴人らにおいて、(1) 家督相続の制度は、家督相続人に独占的特権を与え、他の衆子らの正当なる権利を侵害するものであるから、現行法はこれを禁止した。従つて本件組合契約の「当事者が死亡したるときは、その家督相続人は当然組合員となる」旨の条項は新法の施行と同時に消滅したのである。亡泰輔は僅か一〇分の二の持分しか有しないのにかかわらず、一〇年近くの間独占的に血の池地獄温泉を利用して多大の利益を収めながら、設備の充実等には意を用いず、ひたすら、自己の利益を図ることに専念したのである。もし、組合事業の経営上必要とする土地があれば、組合員たる被控訴人らに協議して買受くべきであるのに、自己の組合持分の増大を計らんがため、或いは被控訴人らの持分権を自己に収めんとの野望をもつて、被控訴人麒造が他の訴訟に没頭していて余猶がない間に、血の池地獄温泉に関係ある土地を密かに買集めたものであつて、これ恰も、主人の病中にその支配人が主家を乗り取らんと策謀したかの如きものあるを疑わしめるのである。
(2) 控訴人らの前示(二)の事実は否認する。かりに控訴人ら間に持分の譲渡があつたとしても、控訴人らは組合員たる地位を承継した者ではないので、畢竟虚無の権利を譲渡したこととなるばかりでなく、たとえ、控訴人らが組合員であるとしても持分の譲渡は他の組合員たる被控訴人らの承諾がないので、効力を生じないし、組合員たる地位は、組合員たるの義務をも伴うものであるから、組合員たるの権利だけを切り離して譲渡することもできないので右譲渡をもつて、組合員たるの権利のみの譲渡と見ることもできないし、そしてまた、死亡組合員を承継するには、相続人といえども必ず組合員たることを承諾しなければ組合員となることはできないのである。すなわち、相続人は組合員となることを欲しない意思を表示すれば、死亡により脱退したる被相続人の持分払戻請求権を承継することとなるのである。控訴人二直に持分を譲渡したと称する同人以外の他の控訴人らは亡泰輔を承継することを欲しない者であるから、本件組合の組合員たる者ではなく、泰輔死亡の時に遡つて脱退の効力を生じ、持分払戻請求権を有するに過ぎない。
(3) 原判決添付第二物件目録記載の不動産及び建造物の共有者及び共有持分の割合の関係は、第一物件目録記載の不動産のそれと同一であり、甲第二号証第五条のうち、現実に本件組合の事業として経営したのは、鉱泥を原料とする膏薬の製造販売だけで、その余の事業は実行するに至らなかつたものである。と述べ<立証省略>、
た以外は、原判決の「事実」に示す通りであるから、これを引用する。
三、理 由
一、原判決添付第一・二目録記載の物件は元被控訴人松田麒造が一〇分の七、同松田克己が一〇分の一、控訴人らの先代(但し控訴人平島トワの夫で同平島貞憲には祖父に当る)平島泰輔が一〇分の二の共有持分を有する共有物であつて、右物件のうち、別府市大字野田字御手洗七七七番地原野二畝二〇歩、同所七七六番地鉱泉地三畝歩等は、温泉湧出地で、通称血の池地獄と呼ばれる別府名所の一であるが、右泰輔及び被控訴人ら三名は、昭和一〇年一一月中、右第一目録記載の物件の各共有持分を出資し(その後第二目録記載の物件の共有持分を追加出資す)、血の池地獄に観覧設備をなして見物人から料金を徴し、また、観覧場で土産品等を販売してこれらの収入から諸経費を控除した純益を、右持分の割合により分配すること等を目的とする存続期間の定めない、(但し可及的永続すべきことを約す)血の池遊覧地経営共同事業を組織して、組合事業を継続していたところ、昭和二二年六月二一日平島泰輔が死亡したことは当事者間に争がない。
二、ところで被控訴人らは、右組合において当事者たる組合員が死亡したときはその家督相続人が当然組合員となる(家督相続人に限る趣旨の)定であつたが、日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(以下民法応急措置法と称する)の施行と同時に家督相続の制度が消滅するに伴い、本件組合成立の事情・目的等に照らし、右の定は失効したと主張し、枝葉の点をしばらく措くと、右の点が本件における主要ないわば唯一の争点であつて、当事者双方の攻撃防禦の方法の提出及び法律的意見の陳述も殆んど右の点に集中されている観があるので、先ず、民法第六七九条第一号の規定を排除する被控訴人ら主張の右のような組合契約の定(条項)は、民法応急措置法の施行に伴い、いかなる影響を受けるのであるかを、右民法の法条との関係において考察吟味し、次に本件組合契約において果していかなる定(条項)が存続しているかということを考え、最後にその余の争点について判断することとする。
三、組合契約をもつて、「当事者たる組合員が死亡したときは、その家督相続人に限り当然組合員となる」旨定めたときは、民法応急措置法の施行と同時に、右契約の家督相続人は、同法第七条第二項所定の遺産相続人と読み換えられて存続するのであつて同法の施行に伴い右組合契約の定が当然全面的に失効するものと解するのは相当でない。(同法第一・三・一〇条参照)もとより組合契約の他の条項中これと反対に解すべき特別の定がある場合は、その定に従うて総合的にこれを解釈すべきであることはいうまでもない。
(1) 一体民法第六七九条第一号が組合員は死亡によつて組合から脱退する旨規定していること、従つて死亡組合員の相続人は組合員たるの権利義務(地位)を承継しないとする理由は、組合はその存続期間は長短とりどりとはいえ多くの場合、継続的な財産上の法律関係を伴い、組合員相互の信用を基礎として成立し存続する性質のものであるが、組合員の相続人の信用状態は他の組合員には未知不明なのが普通であるので、これを一般の財産関係と同列にみて、死亡組合員の相続人が当然その地位を相続承継しうることを認むれば、信用状態不明な未知の者が組合員となる虞があるという点にあるのであつて、沿革的にはローマ法の流れを受けているのである。
(2) しかし、他面から考えると、組合による事業は、その成立の当初には、かなりの費用を要し、組合員の物質的精神的犠牲の割合に比較し収益は僅少なのが普通であつて、漸く事業の成績あがり利益の分配をなしうる段階に入ろうとしている時期、又はその以前に組合員が死亡すれば、同人はただ出捐をなしただけでその相続人が組合利益の分配に参与することができない不都合があるばかりでなく、一方組合は脱退組合員に対する持分の払戻をなさねばならないので、同人の持分が大きければ大きい程、組合の財産状態に重大な悪影響を及ぼし、時にあるいは組合の破綻を惹き起さないとも限らないのであつて、特に永続的な組合として存続させようとする場合においては、組合当事者の意図にも反することとなるのである。従つて、民法第六七九条第一号の規定にかかわらず、これを排除する組合契約が有効であることは、その説明の仕方に多少異るものがあるにせよ、学説判例の一致する所であつて、この点は、商法第八五条第三号、第一四七条についても等しく妥当するのである。
(3) これら法条の規定を排除する組合契約や定款の規定には、組合員(合名・合資会社にあつては社員以下同じ)の相続人は当然組合員となるとか、組合員の相続人は組合員となることができるとか、あるいは、組合員の相続人が組合員たることを表意したときは、他の組合員はこれを拒むことができないとか、その他色々な規定の設け方があるであろうが、要するに、生存組合員にとつて一応信用状態不明な未知の者が組合員となることが当然許容されていることは疑のないところであるから、たとえ被控訴人らの主張するように本件組合は組合員の家督相続人に限り当然組合員となる契約であろうと、あるいは家督相続人遺産相続人のいずれを問わず等しく組合員となる趣旨の契約であろうと民法第六七九条第一号の規定を排除する効力を有する点においては逕庭がないのである。また、家督相続人に限り組合員となる契約が存在しても、契約当時家督相続人たるべき者の氏名を特定し、かつその特定人の信用状態が他の関係組合全員に未知不明の者でないという前提がない限り、即ち、家督相続人某に限り組合員となるということ及び右某を他の関係組合全員がよく知つているということを前提しない以上は、現実に家督相続が開始した時の具体的な家督相続人が実際何人であるかは生存組合員にとつて不明未知の者である虞のあることは、例えば戸主たる組合員が隠居の上分家して分家の戸主となり、他の組合員にとつて未知な者(その者が信用のおけない者である場合を考えよ)を養子となして死亡し養子が家督を相続し組合員たる地位を取得した場合を考えれば明らかであろう。実際平島泰輔は被控訴人ら主張のように本件組合成立後、隠居の上分家し、控訴人知可子、翠子、二直、茂子と各養子縁組をなしたことは当事者間に争がないので、民法応急措置法施行前の規定に依ると、泰輔の法定の推定家督相続人は二直であるが、(この点後記六参照)本件組合成立当時において、泰輔の法定の推定家督相続人が二直であることは、被控訴人らにおいて、夢想さえなし得なかつたであろうし、また事実予想し、予想し得たという何等の証左もないのである。家督相続人は常に当然一人であるが遺産相続人は一人あるいは二人以上たることがあり得るということも、組合員は三人を超ゆることを許さないという契約が存在しない以上(本件においてかかる契約は存在しない。なお後記四参照)何者決定的意義を有するものではない。
(4) 要するに家督相続人は(又は家督相続人に限り)当然組合員となる旨の組合契約は、民法応急措置法の施行に伴い、遺産相続人は当然組合員となる趣旨に変更されて、依然組合契約として存続するものと解するを相当とし、同法の施行によつて、右組合契約の条項は全面的に消滅し、組合契約によつて一旦排除された民法第六七九条第一号の規定が回復適用される結果を生じて、遺産相続人は組合員たる地位を承継しないと解すべき首肯に値する合理的根拠はないのである。以上と異る被控訴人らの見解は採用し得ない。
四、次に本件具体的事実について考察して見よう。
本件組合において組合持分の一〇分の七を有する被控訴人麒造が、組合成立当時戸主たる松田作造の家族であつて戸主でなかつたことは、当事者間に争がなく、これを成立に争のない甲第一・二号証、同乙第一号証並びに当事者弁論の全趣旨に合せ考えると、本件組合契約においては(1) 組合をできうる限り永く存続させることとし、組合員は濫りに脱退を申出でないこと。(2) 組合契約当事者が死亡したときはその相続人は当然組合員となること、(但し組合の業務執行者たるの地位は承継しないこと)従つて当事者は各その相続人もまた同様の趣旨により組合が永続する様にその希望を遺す用意あること。(3) 組合員は他の組合員の同意を得なければ組合の持分を処分せざるは勿論組合財産に対する持分についての担保権の設定その他何等の処分行為をなさざること。(4) 已むを得ない事由で組合を脱退するときは他の組合員にその旨を告げ、他の組合員がその持分を買受ける意思があるときは、該組合員はこれを優先的に買受ける権利があること等の特約を結び、以上の特約は泰輔死亡の当時まで存続していたことが認められ、これに反する証拠はない。
右によると、本件組合において戸主たる組合員が死亡したときはその家督相続人が、家族たる組合員が死亡したときはその遺産相続人が一人であると二名以上であるとを問わず当然死亡組合員の地位を承継することを約したことが明らかであるので、民法応急措置法の施行後においては右特約は死亡組合員の遺産相続人は当然組合員の地位を承継する趣旨に解釈すべく、被控訴人ら主張のように遺産相続人は死亡組合員を承継せずして従前戸主であつた組合員が死亡したときは当然組合から脱退するという風に解する余地のないことは、先に説明した通りである。
以上の認定に反し、あるいは反するかのような原審証人橋野孜郎の証言、原審及び当審被控訴本人松田麒造並びに当審被控訴本人松田克己の各供述は採用し得ないし、その外に以上の認定を覆えすに足る証拠はない。
被控訴人らが本件組合成立当時の組合契約書(いずれも公正証書で甲第一・二号証のこと)の原案であると主張して提出し、前記橋野孜郎の証言によつて右のような原案であることを認め得る甲第三号証の一・二を通覧すると、甲第三号証の二の第二条には「被控訴人両名と平島泰輔は、その持分を世襲財産として永代保有し、正当相続による外他の組合員の承諾を得なければこれを処分し、担保に供し賃貸することを得ず。他の組合員の承諾を得て処分するときは、他の組合員はこれを優先的に買取る権利あるものとす。」との定が存するのであるが、右に世襲財産として永代保有し云々の記載があるからといつて、直ちに被控訴人らのいうように、遺産相続人は死亡組合員を承継しないとの定がなされたものと認むることができないばかりでなく、右第二条の趣旨は前認定の(1) から(4) までの特約条項として本件組合契約書たる甲第一・二号証の公正証書に採り入れられていることは、甲第一・二号証と甲第三号証の一・二を対照すれば、明白であるから、甲第三号証の一・二を援いて本件組合は組合員たる前示三名の家の世襲財産として家督相続人のみがこれを承継し、遺産相続人は承継するものでなく、組合員を三名以上に増加させない趣旨で成立したものであるとの被控訴人らの主張も採用することはできない。また、前示排斥した証拠以外に遺産相続人の承継を許さない特約の存在を肯認し得る証左はないのである。
しかも、被控訴人ら主張のように、遺産相続人の承継を認めないとすれば、本組合成立当時麒造が戸主松田作造の家族であつたことは先に認定した通りである(成立に争のない乙第四号証によると麒造は戸主作造の隠居により、昭和一二年二月一日戸主となつている。)から、麒造が戸主となる以前に死亡したとすると、同人は当然組合から脱退するので、可及的永久に本件組合を存続させ、かつ組合の持分をいわゆる世襲的財産として子孫に伝えようとする組合契約締結の趣旨にも反し、また一〇分の七の持分を有する同人の相続人に対し組合は持分の払戻を余儀なくされる窮地に立ち到り、これは組合自体の存亡に関ることは火を見るよりも明らかであるから、契約当事者が用意周到にも、民法第六七九条第一号の規定を排除する特約をなしながら、右のような不合理な結果を招来するに帰する意思を有するものとは到底思われないのである。(なお附言すると、被控訴人ら主張の如くであれば、民法応急措置法施行後に組合員が死亡すれば、その都度組合員は脱退して、遂に組合は消滅することとなるのであるが、この不合理な帰結を否定すべきことは右説示と同様である。)
しかるに、被控訴人らは、麒造は組合成立当時戸主松田作造の家族であつたが同人の法定の推定家督相続人として事実上作造家の実権を握り間もなく法律上も戸主となつたのであるから、組合成立当時麒造が家族であつたということは遺産相続人が組合員の地位を承継しないとすることを妨げないかのように主張し、麒造が昭和一二年二月一日松田家の戸主となつたことは前認定の通りであるけれども、たとえ、被控訴人ら主張のような事実が存したところで、それだけで前示論断を左右し得るものではない。
五、従つて、昭和二二年六月二一日泰輔の死亡により同人の相続人は当然泰輔の地位を承継して本件組合の組合員となつたものといわねばならない。しかるに被控訴人らは(イ)相続人が組合員たる地位を承継する組合契約存する場合においても、相続人は組合員たることを承諾する意思を表示しなければ当然には組合員となることはないのであり、組合員たることを欲しない意思表示をすれば、脱退の効果を生じ持分払戻請求権を取得するに過ぎないのであるから、(ロ)控訴人二直に持分を譲渡したと称する二直以外の控訴人らは、組合員たることを欲しない意思を表示したものというべきであるので、結局本件組合の組合員ではないという結果を生じたと主張するので判断するに、右(イ)のような有力な学説が存するけれども、当裁判所はこの説を正当としないし、殊に本件においては前に認定した通り組合員死亡したときはその相続人が当然組合員となる旨の組合契約がなされているので、相続人は組合員となることを承諾する意思表示をなすまでもなく当然組合員となるのである。(改正前の商法第六九条第三号に関する昭和九年(オ)第一、六八六号同年一一月九日大審院第五民事部言渡判決参照。なお泰輔の相続人らにおいて相続の限定承認又は放棄をした者があれば、その者が組合員とならないのは当然であるが、当事者弁論の全趣旨によると、本件では、限定承認又は放棄をなした者はないと認められる。)そして、当審控訴本人平島トワ第三回尋問の結果によつて成立を認め得る乙第一四号証から第一八号証までの各記載によれば控訴人ら主張のように二直以外の控訴人ら(但し貞憲については左記六参照)はその持分をそれぞれ二直に譲渡する契約をなしていることが認められるけれども、右譲渡契約は泰輔の死亡によつて当然控訴人らが組合員の地位を取得したことを前提とし、その取得した組合の持分を組合員たる控訴人二直に譲渡する旨の意思表示をなしたもので、(相続分の譲渡でないのは明白で)ある。しかして、右持分譲渡について被控訴人らの承諾がないことは当事者弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、持分譲渡の効果を生ずるに由ないけれども、該譲渡の意思表示がなされたが故に被控訴人ら主張の前示(ロ)の効果を生ずるということはないのである。
六、控訴人らと泰輔との身分関係等が被控訴人ら主張の通りであることは当事者間に争がないので、控訴人貞憲を除くその余の控訴人らは前説示の理由により泰輔の相続人として、同人の死亡と同時に本件組合の組合員となつたものといわねばならない。しかしてその持分の割合は、泰輔の持分一〇分の二を相続分に応じて取得する分で、泰輔の配偶者たるトワは一〇分の二の三分の一たる一五分の一、泰輔の子であるナミヱ、茂子、翠子、二直は、同じく泰輔の養子たる知可子及び養子たる亡増太の六名と共に一〇分の二の三分の二即ち三〇分の四を平等の割合で相続取得するのでその一人の持分は四五分の二であり、宇多子は亡父増太の子として知可子とともに増太を代襲相続するので持分は四五分の一であり、知可子は亡父増太を代襲相続することによつて取得する四五分の一と泰輔の養子として相続取得する四五分の二との合計一五分の一の持分を有することとなる。
次に控訴人貞憲と泰輔との身分関係等は右認定の通りであつて即ちここに再摘すれば、泰輔の養子増太は泰輔の長女ナミヱと戸内婚姻して長女知可子、次女宇多子が生れたのであるが、昭和一四年六月二日戸主泰輔は隠居し増太が戸主となつたところ同月一九日泰輔は分家して分家の戸主となり、昭和一五年一月二九日知可子を泰輔夫婦の養子としたため、昭和一九年一二月一九日増太の死亡により二女宇多子が家督を相続して戸主となり、ついで昭和二一年七月一二日宇多子と三宅貞蔵との入夫婚姻によつて入夫貞蔵が家督を相続して戸主となつたのであるが同人は民法応急措置法施行後の昭和二二年五月一六日死亡し、ついで同年六月二一日泰輔もまた死亡したという事実であつてこれは前示の通り当事者間に争のない所である。被控訴人らは以上の事実に立脚し、泰輔の相続人となるべき者は増太であるから、同人の死亡によりその遺産相続人たる者は宇多子と貞憲であると主張し、増太が宇多子の被代位者であることは先に認定した通りであるけれども、増太の二女で貞憲の母たる宇多子が現に生存しているにもかかわらず、宇多子の外に貞憲もまたその祖父に当る増太を被代位者とし、被相続人泰輔の代位相続人としてその財産を相続したものであるという被控訴人らの見解及び結論において同旨の原判決の判断には、にわかに首肯し難いものがあつて、その理由を知るに苦しむのであるが、あるいは亡戸主増太の家督を相続した戸主宇多子と入夫婚姻をなした貞蔵が家督相続をなすと同時に宇多子を通じて増太の財産を相続し、貞蔵は民法応急措置法施行後たる昭和二二年五月一六日死亡したので宇多子を通じ増太を相続した貞蔵の相続人たる(宇多子及び)貞憲は、結局泰輔の相続人となるべき増太を被代襲者とするその相続人であつて、昭和二二年法律第二二二号民法の一部を改正する法律附則第二五条第一項、第四条第七条により貞蔵のなした家督相続に関してはなお旧法が適用されるということなどが暗にその解釈の前提となつているのではないかと察せられないのでもない。しかし泰輔の相続人が何人であるかを決定するに当つては、同人が民法応急措置法施行中の昭和二二年六月二一日死亡した当時相続が開始し、しかも当時家督相続というものはなく、相続といえば遺産相続だけであつてこれに関しては、同法第七条ないし第九条及び旧法(改正前の民法)の遺産相続に関する規定が適用され、代襲相続人を定むるについては、民法応急措置法第八条第一項旧法第九七五条、第九七四条の規定によるということが留意されねばならない。(もとより再代襲相続も認められたのである。)そして、貞憲の父でその被代襲者たる貞蔵が増太及び泰輔の直系卑属でないことは成立に争のない甲第四号証の四によつて明らかであるから、貞憲は貞蔵の代襲者たる地位においては、増太を被代襲者とすると否とを問わず、泰輔の相続人たる者ではなく、また、増太の子で貞憲の母たる宇多子が現に生存し、増太を代襲する泰輔の相続人たる以上、貞憲は増太を代襲しての被相続人泰輔の相続人たり得ないことは言うまでもない。以上のことは、代襲によらない相続、すなわち貞憲の曾祖父泰輔、祖父増太、父貞蔵らがその順序に従つて死亡し、順次相続が開始した場合を考えれば明白であつて、貞憲は母宇多子が生存する以上泰輔の遺産を相続することはないのであつて、貞蔵が入夫婚姻によつて戸主となり平島家の財産相続人となつたということは、以上の結論を左右するものではない。そしてその他の理由でも貞憲が泰輔の相続人たることを認むべき証左はないのに、貞憲は自己が泰輔の正当相続人の一人として本件組合の組合員であることを主張し抗争していることは顕著であるので、控訴人貞憲に対し組合員にあらざることの確認を求める被控訴人らの請求は正当として認容すべきであり、原判決は以上の説示と理由において異るけれども、右請求を容れた終局の判断は相当であるから、同控訴人の控訴は理由がない。しかしその余の控訴人七名に対し組合員にあらざることの確認を求める被控訴人らの請求は、前説示の通り理由がないので、これを棄却すべきであるのに、原判決が該請求を認容したのは失当であるから、これを取消さねばならない。
よつて民事訴訟法第三八四条・第三八六条・第九五条・第九六条・第八九条・第九三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)